千葉県の腎臓内科医のブログ

透析医療の現状を疑問に思い腎臓内科医になる事にしました。

人工知能で医者はいらなくなるのか その2 〜人工知能で医者はもっと必要になる〜

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前回は人工知能の現状について、技術的にどんな事が可能で、どんなサービスが世の中に存在しているかという点について触れました。

 

korokorokoro196.hatenablog.com

 

 

ディープラーニングという技術革新により、人工知能の性能が急上昇して特定の分野では人間よりも能力を発揮できる段階にまで来ている事にも言及しました。医療現場でいうとゲノム解析やCTやMRI読影の領域では人間をすでに越えてようとしています。

 

しかしながら、人工知能はポテンシャルは秘めているものの、まだまだ未熟であり誰かが正しく教育しないと世間にインパクトを与えるようなツールにはならない事にも言及しました。

 

それを踏まえて、本題の『人工知能で医者はいらなくなるのか』という点について触れたいと思います。

 

結論から言うと医者の仕事は人工知能のおかげで増えていくと思います。

 

 

 

1:『知識の非対称性』の崩壊で医者がもっと必要になる。

 

医者は『知識の非対称性』でご飯を食べてます。『知識の非対称性』とは皆が知らない事を特定の人が知っている状況の事で、知っている人が知らない人へ情報を提供する事で対価を得る事が出来ます。医者はその典型例で、医学知識や経験を元に患者に必要な情報を提供します。

 

昔は医学知識は医療職のみが持っていましたが、インターネットがある現在、誰もが世界中の情報にアクセスできて自分の病気について調べる事ができます。『知識の非対称性の崩壊』により、テレビのコメンテーター達が医者の仕事はなくなると予言していました。しかし医療現場では逆の事が起きています。

 

 

何が起きているかというとインターネットを通じて、得た知識を元に、情報の真偽や今後どう暮らすべきか、何か良い方法はないかなど、様々な疑問を持って医療現場になだれ込んできてます。今まではアクセス出来なかった情報に世間の人が触れる事で、需要が喚起されている訳です。

 

 

こういう場合、多くの患者は医者から話を聞いて、『納得感』を得るために来院します。現段階では『納得感』を提供できるのはネットの話でも人工知能の話でもなく医者の話だと私は確信してます。

 

 

医療現場での『ネットや人工知能の話』と『医者の話』に対する納得感の違いは、寿司でいう『人工知能で完全に理論武装されたスシローの自信作』と『銀座のこの道60年の職人の自信作』に対する納得感の違いのようなものだと考えています。(少し乱暴でしょうか・・・?)

 

 

このような変化で、コンビニ受診が増えたという意見もありますが、私はpositiveに考えてます。

 

 

昔はいざという時に『先生にお任せします』と全て他人に委ねなくてならなかった自分の死や健康を自分自身でデザイン出来るになりました。医学が医者だけではなく皆の物になった訳です。

 

 

人工知能によって、もっともっと医学が世間にインフラ化されていく事が予想されます。ネットと違い、人工知能は『個別性』や『核心的な部分への追求』も提供できるため一見医者の仕事はなくなると思われがちですが、世間の医学に対する需要の幅はドンドン広がり、疑問も多様化していくでしょう。そんな時に医者は人間として、医学知識に加えて、過去に経験した症例や、自分自身の人生とか人間性を元に機械には出来ない価値を患者に提供していけば良いのです。

 

 

 

2:インターネットも人工知能も結局『責任』がとれない

 

『インターネットを見たら病院にいくように書いてあった。』

体調としてはそこまで問題が無いと本人も思っているにも関わらず、インターネットを見て受診を決めた患者さんが増えています。特に小児科領域ではその傾向が強く、(正しいデーターが見つからなかったため数字で示せませんが)少子化にも関わらず小児の時間外診療は増えているそうです。核家族化による社会的サポートの不足が主な原因と考えられていますが、一端としてインターネットによる影響が考えられているそうです。

 

 

実際調べてみたのですが、腹痛、頭痛などで検索するとほとんどのサイトには結局『すぐに医療機関に行くように』と書かれています。これをテレビのコメンテーターは『インターネットが不安を煽って不必要な救急受診を増やしている』と言っていましたが、私からするとやむおえない事だと思います。

 

 

どういう事かというと仮にそのページを年間で10000人みるとした場合、記載されている情報が0.01%外れるとすると年間に1人の健康や命に『責任』を負わなければなりません。0.01%の可能性まで潰そうとすると『〜の可能性もある』『〜の危険性もある』という文脈になってしまいます。最終的に『医療機関を受診してください』と言わざるおえません。『大丈夫です、自宅で経過をみましょう』なんて言える訳が無いのです。

 

それに対して、医者の場合『どんな名医でも14%は誤診する』と言われています。私自身、救急外来をやっていてヒヤヒヤした事なんていくらでもあります。救急外来の場合問診する時間も限られており、出来る検査も限られているので診断がつかない事なんて沢山あります。基本的にはclose follow up(緊密な経過観察)をして次の日の朝になりかかりつけや主治医になっている医師が勤務を始めるまでしっかり『責任』を取り何かあれば再び救急外来に来てもらう事になります。

 

 

結局、人の死や健康に『責任が取れる』のは現段階で『医者』しかいません。インターネットもそして人工知能も所詮『責任が取れない』のです。『責任が取れない』情報は医学の場合、不安を煽るものになりがちです。どんなに医学的に優れている情報も無責任である以上、情報を得た患者の納得感は得られないままです。結局最後は『医者』が必要になるでしょう。

 

 

3:良い医者の姿が変わる

 

今まで話をまとめると人工知能がどれだけ優れていても、結局医者が必要という話をしてきました。しかしながら結局人工知能の力なんて大した事がないのかと聞かれればそれは大間違いです。画像認識能力では2015年の地点で人間を越えており、診断能力も後数年で人間を越えていくと言われています。私達が一生懸命鑑別をあげたり、救急外来で本を見ながら調べたり、専門医に聞いたりすることが馬鹿馬鹿しくなるぐらい人工知能は一瞬でミスなく答えを導きます。

 

 

知っている事自体に価値が無くなるため、

医学知識だけで勝負する医者は今後要らなくなるかもしれません。

 

 

ではどんな医者が必要なのでしょうか。

 

Diamond Harvard Business Review 〜機械といかに向き合うか〜は、AIと人間の棲み分けについて言及しています。

 

https://www.amazon.co.jp/人工知能―――機械といかに向き合うか-Harvard-Business-Review-DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部/dp/447810090X

 

 

人工知能の出来ない事として8つ触れています。

1意思がない

2人間のように知覚できない

3事例が少ないと対応できない

4問いを生み出せない

5枠組みを作れない

6ヒラメキがない

7常識的な判断が出来ない

8人を動かす力、リーダーシップがない

 

 

詳細は本を読んでいただければ良いと思います。そして医療現場でどんな医者が必要になるかは読者の皆様自身で考えていただければと思います。

 

私自身はまだ研修医ですが、人間性、創造力、柔軟性が必要な気がしています。来年から主治医になれる病院に勤務するためまた考え方が変わっていくのでしょう。

 

 

 

4:人工知能は医者の敵なのか

 

私は人工知能について、つい最近興味を持ち、今となって本を読んだり話を聞いてこうやってブログに書いている訳ですが、最初は人工知能なんて無くなればいいのにと思っていました。特に診断学が好きで、難解な病態を解釈していき原因を明らかにしていくプロセスが楽しくて仕方なかった訳です。多くの医者が自分にしかできない事をして、患者さんと家族に感謝される事に多くの快感を覚えています。人工知能誕生によってそういう部分を自分でなくても成し得てしまう事に『寂しさ』を感じてしまう医者は少なくないと思います。少なくとも私はそうでした。

 

そんな時に、前述したDiamond Harvard Business Reviewに良い言葉が載っていました。

 

”従来のように『現在人がしている仕事のうち、近い将来に機械で早く安くできるようになるものは何か』と問うのではなく

『もっと優れた思考機械が人間をサポートするようになったら、人間はどんな偉業を成し遂げられるのだろうか』という問い立ててみてはどうだろうか。”

 

 

 

有史以来最大の少子高齢化社会を迎えた21世紀日本における問題山積みの医療現場での人工知能の活躍に期待しております。

 

私自身、来年から腎臓内科になり、腎不全重症化予防、緩和ケアをやっていきたいと考えており、人工知能で出来る所は人工知能に任せて、私は人間として人間らしく医療をしていく将来にワクワクしております。

 

人工知能は医者の敵なのか?』と聞かれれば私はこう答えます。 

➡︎『人工知能は可能性だ。』

 

二部作になりましたが、お読みいただいてありがとうございました。